2022年9月17日土曜日

胸腔穿刺で肋間動脈を刺さないために。

今回は、改めて胸水穿刺を行う際の胸腔穿刺を考えるべきと思ったので、少しイベントからは時間が経ちましたが手技についてまとめてみました。

特に市中病院ではジュニアレジデントのときにもすることがある手技で、当たり前のようにできないといけないものです(プラスアルファとしては腰椎穿刺・腹腔穿刺)。

 

胸水を採取する理由の一つに疾患の鑑別があります。つまり、滲出性と漏出性の鑑別です。

以下があまりにも有名なLightの基準とその他補助診断になります。ちなみにLight先生は卒後4年目にこの基準を作られたそうです。すごいですね。

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[N Engl J Med. 2002 Jun 20;346(25):1971-7.]

Lightの基準は一つでも当てはまると滲出性胸水だと言われます。

 

胸水(特に片側性胸水)の鑑別に関しては機会があったら後日また送ります。尚、主に挙げられる鑑別は以下の通り。[Int J Clin Pract. 2009 Nov;63(11):1653-9.]

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今回は胸腔穿刺の方法論です。大体の施設がこのようにしているかと思います[日内会誌 102124312472013]

    1618Gの静脈留置針と注射器、三方活栓、点滴用延長チューブ(アスピレーションキットなどでも可)、消毒薬、局所麻酔に必要な23G注射針、注射器、局所麻酔薬などを準備する。

    胸水が貯留して穿刺しやすい体位(座位あるいは臥位)をとる。

    穿刺部(46肋間中腋窩線上を確認して穿刺予定部位周囲の十分な範囲を消毒する。

    23G注射針で穿刺部位に局所麻酔を十分浸潤させる。皮膚に対してほぼ垂直に注射器で陰圧をかけながら肋骨上縁で針を少し刺入する。血液の流入がなければ麻酔薬を適量注入する。同様の操作を繰り返しながら、穿刺部位の胸壁に麻酔薬を浸潤させながら針を進める。陰圧を加えながら臓側胸膜を越えると液体が吸引できる。癌性胸水などでは、胸壁内に癌細胞などを接種することになるので、液体が引けた時点で局所麻酔薬の注入を終える。

    局所麻酔後に胸壁表面から胸腔までの距離を確認する。静脈留置針と注射器を接続し、局所麻酔時と同じ穿刺経路で針を刺入する。注射筒に陰圧をかけながら、ゆっくりと肋骨上縁に沿って胸腔内に進める。壁側胸膜を破り胸腔内に達すると液体が吸引される。それ以上針が入らないように内筒を指で固定しながら外筒を進め、胸腔内に空気が流入しないように内筒と注射器を抜き、三方活栓などをつける。

    三方活栓に3050mlの注射器と点滴用延長チューブ・排液バッグなどをつないで目的の分量を排液する。(※当院でも他の施設でも、点滴用延長チューブの先に輸血用のルートを接続して、クレンメで流量を調整できるようにすることが多いです。)排液後はすみやかに外筒を抜去し、ガーゼと伸縮テープで穿刺部を圧迫する。

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重要なのは穿刺部位です。46肋間中腋窩線上を選択するにはなにか理由があるのでしょうか?


2003年に発表されたBritish Thoracic Society ガイドラインで「safe triangle」といわれる広背筋前縁、大胸筋外側縁、乳頭の水平面より上方および腋窩より下方で囲まれた部位が穿刺に適した部位とされていて、その場所が結果的に第46肋間となるようです[Thorax. 2003 May;58 Suppl 2(Suppl 2):ii53-9.]。尚、気胸の場合は第2肋間鎖骨中線や第45肋間中腋窩線または前腋窩線とやや適する位置が異なることに注意です。

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ただこれでは不十分で、長胸神経や肋間神経外側皮質枝へのリスクを最小限に抑える目的に、腋窩中線より1cm前方を穿刺するほうが良いという意見もあります[Crit Care. 2013; 17(Suppl 2): P293.]


とはいえ、第4~6肋間はやや高く、エコーで見ると胸水が溜まっていないことも多く、「やむをえず」それ以外の肋間からアプローチせざるをえない場合があるのが現実です。

 

医療事故調査・支援センター胸腔穿刺に係る死亡事例の分析(https://www.medsafe.or.jp/modules/advocacy/index.php?content_id=60)に記載されている図ですと、解剖学的には以下のような配置となります。場合によっては心臓や大血管にも当たりうる、ということを忘れないことが大事です。

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ところで肋間動脈は肋骨下縁にある溝を通ると習いますが、分岐したあとしばらくは肋間を走行するという事実を知っているでしょうか?

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面白い研究があって、その中では肋間動脈は棘突起より外側の肋間7cm以内で肋間に露出していることが示唆されています。Chest. 2013 Mar;143(3):634-639.

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また同じ文献中に下部肋間と血管位置の分布も記載されており、大体50cm!は肋間を走行する可能性があるとのことでした。50cmなんてほぼほぼ、前胸部ですよね。

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以上から言えることは以下の3点です。

・通常はSafety triangleを目印に刺す。

・中腋窩線から1cm程度前方を狙う。

safety triangle以外をやむを得ず狙う場合には、棘突起から外側7cm以上の部位を狙う。下部肋間をアプローチする際には常に血管損傷のリスクがつきまとうことを前提に動く。

 

以上です!

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