2022年9月16日金曜日

入院患者で発熱を見たら/偽痛風を見たら・・・

先日僕が外勤に行っている間にチームの患者が38度を超える熱発をきたしました。

知っている方はすでに知っていると思いますが、入院患者の発熱で考えるべき事をおさらいしましょう。

 

まずはいつのタイミングでもFever work upをしなければならない状況です。

    敗血症(38度以上の発熱に、頻脈、頻呼吸、意識障害、低血圧を伴う場合)

    悪寒戦慄を伴う場合(特異度90.3(89.2-91.5)%, 陽性尤度比4.65(2.95-6.86)で菌血症を示唆する[Am J Med. 2005 Dec;118(12):1417]

    血管内デバイス感染、尿路感染、胆道感染が疑われる場合

悪寒戦慄の問診ですが、「毛布に包まってもガタガタ震えますか?」と聞くと良いでしょう。

 

胸部レントゲン、尿検査、一般採血に加えて培養を取るのがFever workupmininum workupと言います。なお培養=血液培養2セット+尿培養+痰培養です。

 

では何を念頭に診察していくかですが、僕は以下のように考えるよう教えてもらいました。



最低限考えておくべき3疾患

    肺炎

    尿路感染症

    胆道感染症(胆嚢炎・胆管炎)

医原性疾患の3疾患(医原性3D

    Drug:薬剤

    Device:血管内ライン、期間内チューブ、経鼻胃管、尿道カテーテル、透析用シャント、その他人工物

    Difficile:クロストリジウム・ディフィシル=偽膜性腸炎

寝たきり患者の3疾患(寝たきりの3D

    DVT;深部静脈血栓症

    Decubitus:褥瘡感染

    CPPD:結晶性関節炎≒偽痛風

その他、軟部組織感染症や腹腔内感染症もありえますが、History & Physical(Top to toe approach)を丁寧に取ることで、程度絞り込むことができます。

 

それらを踏まえて今回の事例を考えましょう。

肺がんを既往に有し、放射線治療後の70代の男性。今回膜性腎症によるネフローゼ症候群の治療目的に入院となっています。急性発症の38度を超える発熱を認めており、右肩関節に自発痛ならびに圧痛を認めたが、その他症状、身体所見は認めなかった。

整形外科にコンサルトを行うと、右肩関節の関節裂隙に石灰化を認めており、穿刺液は黄色混濁であったため、偽痛風疑いと診断された。

*******

 

さて、偽痛風(CPPD disease)って何でしょうか?

CPPDcalcium pyrophosphate depositionの略で、6-24 時間以内に最大となる激しい関節痛、腫脹、圧痛が急速に出現するのが特徴です。原因は名の通り、ピロリン酸カルシウムの関節内沈着です。65 歳以上の患者で、膝、手首、肩に結晶性関節炎を示唆する症状があれば、偽痛風である可能性が高いものの、結局は結晶の証明が確定診断となります。Ann Rheum Dis. 2011 Apr;70(4):563-70.

image.png

場所としては、膝がもっとも起こりやすいですが、肩や手関節、MCP 関節でも起こるのが特徴です。

 

CPPDを起こしやすい病態として、①年齢。②変形性関節症の存在、③外傷の既往、④副甲状腺機能亢進症、⑤低マグネシウム血症、⑥利尿剤(ループ利尿薬)などが挙げられます。Ann Rheum Dis. 2011 Apr;70(4):563-70. Rheumatology 2012;51:2070-2074. 

この患者では、ループ利尿薬を胸水軽減のために発症5日前から使用していたので、年齢も併せて原因となった可能性がありそうです。

 

画像的検索にはレントゲンとエコーが有用です。

レントゲン初期スクリーニングの場所として、膝、骨盤(恥骨結合)、手関節 Xpを撮影する必要が本来はあります。McCartyでは、この 3 か所で CPP crystal がなければそれ以上調べる必要はないとされています。

CPPD disease の レントゲンでは軟骨石灰化が特徴ですが、その実は40%でしか見られないとされています。N Engl J Med. 2016 Jun 30;374(26):2575-84.

image.png

エコーでは以下のような所見が特徴的とされています。

image.png

ネジメントで大事な点は以下の通りです。Ann Rheum Dis. 2011 Apr;70(4):571-5.

l  冷却や関節穿刺などの非薬物治療や、長時間作用型のステロイド関節注射(eg. リンデロンなど)などの非内服治療のみでも症状は良くなることがある。

l  NSAIDs(潰瘍が無ければ)とコルヒチン(0.5mg×3/日を数日間)は同じくらい効果がある。

l  関節穿刺が受け入れられない患者に対しては、短期間のステロイド(内服or静脈注射)使用は許容される。

l  発作予防としては少量コルヒチン(0.5mg-1mg/日)か少量NSAIDs.

l  CPPDの長期マネジメントとしてNSAIDsやコルヒチンが使えなければ、少量ステロイドやMTXヒドロキシクロロキンなどは考慮される

l  副甲状腺機能亢進やヘモクロマトーシス、低マグネシウム血症は、是正する。

l  症状が無いいCPPDについては、無治療で構わない。

 

症例に戻ると、この整形外科の先生が結晶の証明をしてくれなかった事で、管理が難しくなりました。「偽痛風を疑ったら、化膿性関節炎を除外する」が本日最も伝えたい事です。化膿性関節炎の証明は培養でしかできません(とはいいつつも、70-90%で同定できるのみで完璧ではない)[Lancet 351:197-202, 1998]、また、CPPD関節炎と併発することも稀にあります(1.5%)[ J Emerg Med. 2007 Jan;32(1):23-6.]

そこで、関節液を評価することで診断確率を上げることができます。以下に診断特性を示します。「白血球がゴマン(5/mcL)いたら、化膿性関節炎!」とおぼえましょう[JAMA. 2007 Apr 4;297(13):1478-88.]これも特異度が100%じゃないことに注意です。

image.png

グラム染色もしたほうが良いですが、診断特性が低い事に注意です(化膿性関節炎におけるグラム染色の感度GPC:5075% GNR:50%未満)つまり陰性だからといって化膿性関節炎を除外してはならない[Lancet 351:197-202, 1998]。

 

長くなってしまいましたが、本日伝えたいこととしては以下の3です!

l  院内発症の発熱を見たら、コモンな3疾患と6Dはせめて押さえる

l  CPPDを疑ったら、化膿性関節炎を除外する!

l  白血球がゴマン(5/mcL)といたら、化膿性関節炎!

 

以上です!

0 件のコメント:

コメントを投稿

小児頭部外傷

夜に 小児 の 頭 部 外傷が来て対応した、 というイベントがありました。 小児 の意識障害 客観的評価するには有用だが、判断はなれないと難しい→ 母親にいつもとなにが違うが聞けばよい。 小児 のGCSの取り方。 ・EとMはほぼ同じ ・Vは笑顔で声に反応、物を視線で追えば5 ・あ...