先日僕が外勤に行っている間にチームの患者が38度を超える熱発をきたしました。
知っている方はすでに知っていると思いますが、入院患者の発熱で考えるべき事をおさらいしましょう。
まずはいつのタイミングでもFever work upをしなければならない状況です。
① 敗血症(38度以上の発熱に、頻脈、頻呼吸、意識障害、低血圧を伴う場合)
② 悪寒戦慄を伴う場合(特異度90.3(89.2-91.5)%, 陽性尤度比4.65(2.95-6.86)で菌血症を示唆する[Am J Med. 2005 Dec;118(12):1417]
③ 血管内デバイス感染、尿路感染、胆道感染が疑われる場合
悪寒戦慄の問診ですが、「毛布に包まってもガタガタ震えますか?」と聞くと良いでしょう。
胸部レントゲン、尿検査、一般採血に加えて培養を取るのがFever workupのmininum workupと言います。なお培養=血液培養2セット+尿培養+痰培養です。
では何を念頭に診察していくかですが、僕は以下のように考えるよう教えてもらいました。
最低限考えておくべき3疾患 | ① 肺炎 ② 尿路感染症 ③ 胆道感染症(胆嚢炎・胆管炎) |
医原性疾患の3疾患(医原性3D) | ① Drug:薬剤 ② Device:血管内ライン、期間内チューブ、経鼻胃管、尿道カテーテル、透析用シャント、その他人工物 ③ Difficile:クロストリジウム・ディフィシル=偽膜性腸炎 |
寝たきり患者の3疾患(寝たきりの3D) | ① DVT;深部静脈血栓症 ② Decubitus:褥瘡感染 ③ CPPD:結晶性関節炎≒偽痛風 |
その他、軟部組織感染症や腹腔内感染症もありえますが、History & Physical(Top to toe approach)を丁寧に取ることで、程度絞り込むことができます。
それらを踏まえて今回の事例を考えましょう。
肺がんを既往に有し、放射線治療後の70代の男性。今回膜性腎症によるネフローゼ症候群の治療目的に入院となっています。急性発症の38度を超える発熱を認めており、右肩関節に自発痛ならびに圧痛を認めたが、その他症状、身体所見は認めなかった。
整形外科にコンサルトを行うと、右肩関節の関節裂隙に石灰化を認めており、穿刺液は黄色混濁であったため、偽痛風疑いと診断された。
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さて、偽痛風(CPPD disease)って何でしょうか?
CPPDはcalcium pyrophosphate depositionの略で、6-24 時間以内に最大となる激しい関節痛、腫脹、圧痛が急速に出現するのが特徴です。原因は名の通り、ピロリン酸カルシウムの関節内沈着です。65 歳以上の患者で、膝、手首、肩に結晶性関節炎を示唆する症状があれば、偽痛風である可能性が高いものの、結局は結晶の証明が確定診断となります。Ann Rheum Dis. 2011 Apr;70(4):563-70.
場所としては、膝がもっとも起こりやすいですが、肩や手関節、MCP 関節でも起こるのが特徴です。
CPPDを起こしやすい病態として、①年齢。②変形性関節症の存在、③外傷の既往、④副甲状腺機能亢進症、⑤低マグネシウム血症、⑥利尿剤(ループ利尿薬)などが挙げられます。Ann Rheum Dis. 2011 Apr;70(4):563-70. Rheumatology 2012;51:2070-2074.
この患者では、ループ利尿薬を胸水軽減のために発症5日前から使用していたので、年齢も併せて原因となった可能性がありそうです。
画像的検索にはレントゲンとエコーが有用です。
レントゲン初期スクリーニングの場所として、膝、骨盤(恥骨結合)、手関節 Xpを撮影する必要が本来はあります。McCartyでは、この 3 か所で CPP crystal がなければそれ以上調べる必要はないとされています。
CPPD disease の レントゲンでは軟骨石灰化が特徴ですが、その実は40%でしか見られないとされています。N Engl J Med. 2016 Jun 30;374(26):2575-84.
エコーでは以下のような所見が特徴的とされています。
マネジメントで大事な点は以下の通りです。Ann Rheum Dis. 2011 Apr;70(4):571-5.
l 冷却や関節穿刺などの非薬物治療や、長時間作用型のステロイド関節注射(eg. リンデロンなど)などの非内服治療のみでも症状は良くなることがある。
l NSAIDs(潰瘍が無ければ)とコルヒチン(0.5mg×3/日を数日間)は同じくらい効果がある。
l 関節穿刺が受け入れられない患者に対しては、短期間のステロイド(内服or静脈注射)使用は許容される。
l 発作予防としては少量コルヒチン(0.5mg-1mg/日)か少量NSAIDs.
l CPPDの長期マネジメントとしてNSAIDsやコルヒチンが使えなければ、少量ステロイドやMTX、ヒドロキシクロロキンなどは考慮される
l 副甲状腺機能亢進やヘモクロマトーシス、低マグネシウム血症は、是正する。
l 症状が無いいCPPDについては、無治療で構わない。
症例に戻ると、この整形外科の先生が結晶の証明をしてくれなかった事で、管理が難しくなりました。「偽痛風を疑ったら、化膿性関節炎を除外する」が本日最も伝えたい事です。化膿性関節炎の証明は培養でしかできません(とはいいつつも、70-90%で同定できるのみで完璧ではない)[Lancet 351:197-202, 1998]、また、CPPD関節炎と併発することも稀にあります(1.5%)[ J Emerg Med. 2007 Jan;32(1):23-6.]。
そこで、関節液を評価することで診断確率を上げることができます。以下に診断特性を示します。「白血球がゴマン(5万/mcL)といたら、化膿性関節炎!」とおぼえましょう[JAMA. 2007 Apr 4;297(13):1478-88.]。これも特異度が100%じゃないことに注意です。
グラム染色もしたほうが良いですが、診断特性が低い事に注意です(化膿性関節炎におけるグラム染色の感度GPC:50−75% GNR:50%未満)つまり陰性だからといって化膿性関節炎を除外してはならない[Lancet 351:197-202, 1998]。
長くなってしまいましたが、本日伝えたいこととしては以下の3点です!
l 院内発症の発熱を見たら、コモンな3疾患と6Dはせめて押さえる!
l CPPDを疑ったら、化膿性関節炎を除外する!
l 白血球がゴマン(5万/mcL)といたら、化膿性関節炎!
以上です!
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