今、発熱はないものの担癌患者(非小細胞肺癌)でCRPが微増している患者がいます。入院中にESBLクレブシエラ肺炎の治療歴があり、5日間治療をおこなったのですが下がらないこと、少し前に胸水を採取したところ癌細胞の胸膜播種があったことから腫瘍に随伴した炎症反応の上昇ではないかと考えています。ただ本当に、それでいいの?他の指標、具体的には「プロカルシトニン」は使えないか、というのが今回のクリニカルクエスチョンです。
プロカルシトニンとCRPの違いは、以下のようなものです。
■プロカルシトニンとCRPの特徴(検査と技術. 2010; 38(10): 916-920.)
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プロカルシトニン |
CRP |
上昇時期 |
3時間 |
6時間 |
ピーク |
12時間後 |
24時間以後 |
半減期 |
24時間 |
20時間 |
産生臓器 |
全身(肝、肺、腎、脂肪etc…) |
肝臓 |
産生刺激 |
TNF-α、IL-6など |
「PCTは感染による炎症所見を反映するもの」と言われるものの、偽陽性となる病態は非常に多いです。また逆に、感染症にも関わらず、偽陰性となることもあるので、そこのところ注意です。
■PCTの偽陽性・偽陰性の要因、及びPCT合成を阻害しないもの(medicina. 2019; 56(12): 1948-52.
)
偽陽性 |
偽陰性 |
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非細菌感染症 |
l マラリア l 全身性の真菌感染(カンジダ、アスペルギルス) l レジオネラ l 重症クロストリジウム腸炎 |
l 感染の早期 l 感染性心内膜炎 l 虫垂炎 l 局所に限局した細菌感染症(膿胸、扁桃周囲膿瘍、化膿性関節炎、皮膚軟部組織感染症) |
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身体的負荷 |
l ショック、心肺停止蘇生後 l 外傷、術後 l 熱中症、熱傷 l 腸管虚血、膵炎 l 脳出血 l 化学性肺臓炎 l サイトカイン血症(FMFなど) l 移植後拒絶反応 l 急性呼吸窮迫症候群 |
PCT合成を阻害しないもの |
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l ステロイド投与 l 好中球減少症 l HIV感染症 |
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悪性腫瘍 |
l 甲状腺髄様がん l 小細胞肺がん l カルチノイド l 腫瘍随伴症候群 |
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薬剤投与 |
l 抗胸腺細胞グロブリン l T細胞抗体 l 顆粒球輸血 l リツキシマブ l アレツズマブ l 悪性腫瘍に対するTNF-α |
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自己免疫疾患 |
l 川崎病 |
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患者背景 |
l 新生児 l 腎障害(CCr 30mL/min未満) |
ちなみにCRPも感染症であがるでしょ?という短絡的な思考ともなりやすいですが、以下の病態に注意です。
■CRPが上がりづらい疾患や背景因子(medicina. 2021; 58(5): 590-93.)
疾患 |
背景因子 |
l 髄膜炎や脳炎などの中枢神経感染症 l 漿膜炎を伴わないSLE l 猫ひっかき病などのリンパ節感染 l 免疫芽球性T細胞性リンパ腫 l 甲状腺機能亢進症など内分泌疾患 l 習慣性高体温症 l 心因性発熱 l 薬剤熱 |
l 肝硬変患者 l 免疫抑制薬使用患者 l 頭蓋内圧亢進状態(脳出血、頭蓋内感染) l 高温環境 |
これら炎症マーカーは細菌感染症にどれだけ有用なのでしょうか。それをまとめたメタ解析論文があります。
■CRP、プロカルシトニンの細菌感染に対する感度と特異度(Clin Infect Dis. 2004 Jul 15;39(2):206-17.)
細菌感染症 |
プロカルシトニン |
CRP |
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感度%(95%CI) |
特異度%(95%CI) |
感度%(95%CI) |
特異度%(95%CI) |
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vs 非感染症 |
88(80-93) |
81(67-90) |
75(62-84) |
67(56-77) |
vs ウイルス |
92(86-95) |
73(42-91) |
86(65-95) |
70(19-96) |
このメタ解析では組み込んだ研究それぞれの CRPのカットオフ値が1.5~10mg/dL、プロカルシトニンのカットオフ値が0.5-6.1ng/mLとばらつきがあることに注意が必要であるもののやはりこれらの値だけで 細菌感染症の診断はしないほうがよいと言える。
そもそも、疾患によってプロカルシトニンの有用性(診断特性)が異なることも知られている(BMC Med. 2017 Jan 24;15(1):15.)。以下は診断に有用な疾患を+の数で表したもので、感染性心内膜炎や虫垂炎、化膿性関節炎におけるプロカルシトニン値は解釈が必要となってくる。
肺炎の場合には以下のようなことが少なくとも言えそうだ。
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